朝がゆっくりめだったといっても、飛行機に乗って遠く奄美大島までやって来たのだった。旅の疲れか、石岡は、森川がシャワーを浴びている間にぐっすりと寝込んでしまったらしかった。翌朝、目が覚めたとき、辛うじてブランケットが掛かっている状態で、石岡は昨日の服のままベッドに寝転がっていた。
隣のベッドで、森川がうつぶせになって寝ている。パジャマを持ってきていないのか、裸の肩と腕がブランケットから出ていた。二の腕のTシャツの袖の下あたりから下がまだ赤くなっている。枕の上にうつ伏した顔も、頬、鼻の頭がとくに赤い。
石岡は森川を起こさないように静かにベッドを降りてユニットバスの扉を開閉した。ゆっくりと蛇口を捻り、低いバスタブの中でシャワーを浴びる。朝起きたばかりでぼんやりしていて、シャンプーや着替えを持たないで入ってしまった。うっかりしたな、と思いながらとにかくシャワーで頭から流す。やっぱりシャンプーと着替えを取ってこようとシャワーの蛇口を閉めて、小さなタオルを腰に巻いた。そおっと扉を開けて顔を出すと、森川がベッドの上で肩肘を付いていた。
「おはよ!」
「あ・・・起こしちゃいました?すみません」
濡れた足をつま先立ててスーツケースを置いた窓際のテーブルまで歩く。森川が石岡を目で追っていた。
「パンツ忘れちゃった。」
「貸そうか?」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・シャワー浴びる時に」
森川が豪快に笑う。
「分ーかってるよー」
(朝から元気な人だな・・・)
一緒になって笑いながらパンツと洗面セットを持ってもう一度シャワーに向かった。扉を一度閉めて、すぐにもう一度開けた。
「森川さん、俺、頭洗いたいんですけど、風呂、まだ使ってていいですか?」
「・・・トイレ使いたいなあ・・・。しかも長く。」
「あ。」
「冗談。」
「あぁ。」
「お前ってほんと、可愛いのな。」
「はぁ・・・いや、どうもありがとうございます。では、ソッコウで浴びますので少々お待ちを!!!」
石岡は今度は音を立ててユニットバスの扉を閉めた。シャワーカーテンを半分閉め、小さなシャンプーセットをギュっと押して掌にシャンプーを取る。出しすぎたな、と思いながら頭にのせてごしごしとこすった。シャンプーの液は本当はお湯で溶かしてから使った方がいいんだよな、とたまに思い出すのだけれど、いつも頭にのせた後だ。小さなシャンプーセットの蓋が、壁に取り付けられた石鹸置きの上に乗っているのを落ちないように、と思いながら頭を洗った。そして、流しながら、シャンプーの蓋を閉めて、こういうのっていつもリンスが残るんだよな・・・と思う。
『おまえってほんとかわいいのな』
はた、とその言葉を思い出す。
(森川さんてやっぱりそっちなんだろうか・・・?)
蛇口をぎゅうっと閉めて、少し湿ったタオルで体を拭いて、洗面台の上のボクサーパンツを手に取った。パンツ一丁で出てくとか、アリだろうか。なんでそんな疑問が頭をよぎるのだろう。頭を拭いたタオルで周りに跳ねた水を拭き、結局それ以外にないのだから石岡はパンツ一丁で部屋へ出た。森川はまだベッドの上にいて、ベッドの向かい側に設えられたテレビを見ていたが、石岡が出てくると、のんびりとベッドの上に座りベッドの足元に投げてあった洗面用のポーチをポンポンとボールのように弄んだ。
「今日も晴れだよ。」
森川がそう言いながら石岡が座っているベッドを横切りユニットバスに向かう。ドアを開け放したまま、シャワーの音が聞こえた。