『もう いい。』

-バタン-


7時頃...

あたしは 家出
ろくな荷物も持たずに
財布と携帯を手に持って
とことなく 道を歩き続けた。
もう あんな家こりごり
止まらない苛立ちに 腹をたたせながら
何も考えずに 道を進んでいた。


ただ歩く道には
おいしそうな匂いで包まれていて
家族のあたたかい食卓の中に
笑顔がたくさんあふれているような
うらやましい光景でいっぱいだった。



あたしは 優希(ゆうき)
家庭環境はあやふや
両親は 離婚
片親かつ 父子家庭。
昔は 父親を尊敬していたけど
やっぱり 中学生とでもなると
関わりにくい部分が出てきて
ほとんど 話さなくなっていた。
そして 今に至る

父親は この頃から
脳梗塞にかかっていた
といっても あまり深刻な方ではなく
別に 普通だし 元気。
けど しばしば倒れることがあって
6年続けてきた 仕事を退職
生活費は 生活保護を受けて
養っていたため 苦労はしなかった


記憶を巡っていたら
もう 9時。
まぁ、まだ余裕かなと思って
のんびりと 携帯を弄りながら
ひたすら 歩いていた
だけど 10月の秋となれば
夜の暗さは なかなかで、
おかげに 携帯の画面と景色の
光のちがいで まったく
足元や 景色が見えない。
本当 科学って いい迷惑


そろそろ 気温も下がってきて
肌寒さを感じ
周りを見渡すと 家から
だいぶ離れたとこに来てしまっていた
まぁ、いいっか(笑)
この辺の区域は 大抵わかる
それに 別れた母の家にも近かったし
とりあえず その辺を目指してみた


冷ややかな風が吹く
歩き疲れてきた頃
あたしの目の前には 2、3人の男と女
見知らぬひとで
盛り上がり別れを告げていた瞬間。
高校生らしきひと
でも 身長は 中3くらい...
はっきり言って 高校生にしては
高くないけど 何気人に物言ってる
あたしよりか 断然高い(笑)
よく目立っている
右耳のリングピアスには 胸が高鳴った

ふと 視線をずらすと 警察が
夜間パトロールをしていた
あ、こっちに向かってくる。

固まっていたあたしに 彼が

「あれ 捕まるよ?帰んないの?」

『は?』

いやいや、帰んないのって
質問の意味不明さに
思わず 喧嘩ばしった口調で
答えてしまったあたしに
彼はまた

「だからー、帰んないの?
もうだいぶ 暗いし 警察つかまるよ」

このひと 心配してくれてるのか
馬鹿にしてるのか
なんか 不愉快に思ったけど

『大丈夫』


そう言うと

「寒くないと?こんなとこいて
まさかの家出?」

かなり図星。
でも あたしは

『別に 大丈夫』

と答えて その場を離れようとしたとき
警察がこちらに向かってきた


「ちょ、来い」


そう言って
甘い匂いのもこもこした上着を
背中にあてられ
手を引かれ 数百メートル先の
アパートに 忍ばされた

『ここ 何?』

「あー、ここ 俺のいとこんち
しばらく 旅先で出るから
好きに使えって 留守番頼まれてんの」

『なんで あたしをここに?』

「寒そうだから」

それは どうもご親切にって思ったけど
あたし このひと 知らないし
戸惑いながらも あったかいお茶をくれた

『ねぇ..』

「ん?」

『名前、』


「あぁ、俺は 高也(たかや)。
そっちは?」

『あたしは 優希。』

「へー、俺の友達にも
その名前いるよ 多いんだね」

『多い?』

「ん、てか 優希
結局 家出やろ?」

『あ、うーん。』


「泊ってく?」

『?』


「泊まってく?って」

『え、いや、いいよ
もう大人しく帰るから』

時計を指さされた 11時30分を過ぎてる

「明日 すんなり帰ればいいじゃん」

『でも...』

だって この人 初対面だし
けど なぜか 高也は 全然初対面って
感じしなくて むしろ
どこかで もう逢っていたような
そんな感じがしていた。

「ん、」

差し出したのは タオル

「あったまってくれば」

高也は 本当 優しかった
知らない人のはずなのに何か違う、
それと 違うものを感じてたんだ。


お言葉に甘えて
お風呂でゆっくりして
さっぱりしたとこで風呂場から
あがったけど そうだ、
下着がない。
かといって 今まで履いてたやつを
履くのにも 汚さ感じるし..
と思ってたら
洗濯機の上に バスタオルと下着と部屋着。


『高也.. あの、洗濯機の上のやつ』

「うん それそれ 借りていいから」

『勝手にいいの?』

「別 いいよ」

『ありがとう さっきから本当』

「ん、なら 俺入ってくるわ」

バタンとドアが閉まり
高也は 風呂場に向かった



高也に手を引かれたとき、
高也の手は冷たくて
冷えてる自分をほっといて
あたしにうわぎを被せてくれた
あなたの手の冷たさは
ほんのした ぬくもりであったんだね
安心したこころにひとつ
何かが芽生え気がした
考えてるうちに あたしは
ふかふかのソファーで寝ていた