「岩崎君、大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です」


と言ってから、しまったなと加奈子は思った。“気分が悪くなったから帰ります”と言えば、帰れたかもしれないのに、と。しかし逆に“じゃあ休んで行くといい”と言われる可能性もあり、その場合はますます帰れなくなる。


(なんて、今更よね……)


加奈子は覚悟を決め、香川の後についてマンションへ入って行った。


「狭いけど……」


と香川は言ったが、2DKの部屋は家具が少ない事もあり、加奈子にはむしろ広く見えた。


香川がダイニングの窓のカーテンをシャッと開けると、大きな窓越しに夜景が見えた。前に香川に連れて行かれたホテルの最上階のバーとは比べ物にならないが、なかなか見事な眺めだ。


「うわあ、綺麗ですね……」

「なかなかの物でしょ? これを君に見せたかったんだよ」


そう言いながら、香川は加奈子の肩にそっと手を回した。思わずピクッと反応する加奈子。


「岩崎君……」

「は、はい」

「キスしても、いいかな?」