もし香川のマンションへ行けばどういう事が起き得るか。それが分からない程加奈子はうぶではない。

今までキスもしようとしない香川に、不思議だなと思う反面、安心していた部分が加奈子にはあった。しかしいい歳した大人同士が、まして結婚を前提に付き合えば、いつかはそういう関係になるのは当然だ。


加奈子は香川に抱かれる自分を想像したが、さほど嫌悪は感じなかった。ただ、そうなりたいという願望はなく、例えるなら面倒な仕事を引き受ける、そんな感じがした。


「急だったかな? 嫌なら今度に……」


香川は遠慮がちにそう言ったが、


「あ、いいえ。分かりました。行きます」


と加奈子は言ってしまった。どうせいつかはそうなるのだし、先延ばししても意味ないだろうと思ったのだ。今日は体調がいいし。


「そうですか!? ありがとう。では行きましょう」


香川はニコッと笑い、やっといつもの快活な彼に戻った。そんな香川の横を歩きながら加奈子は、


(これでいいのよ。嶋田君だって、きっと今夜も美由紀ちゃんと……)


そう自分に言い聞かせるのだった。