加奈子は駅へ走り、来た電車に飛び乗った。行き先は大輔のアパートだ。考えるより先に体が動いていた、という感じだ。

しかし電車のベンチシートに腰掛け、息を整えて汗が引いて来た頃にはだいぶ冷静になった。


いきなり行ったら大輔が驚くだろうし、そもそもこの時間に彼がアパートにいる保証もない。電話を掛けようかと思ってバッグに手を入れたが、中に携帯はない。リビングのテーブルの上に置きっ放しだった。


家にUターンしようかとも思ったが、それよりも、大輔の気持ちを直接本人に確かめたい、という思いの方が強かった。

というか、もっと単純に加奈子は大輔に会いたかった。彼に会って、このところ全く見ていない彼の爽やかで人懐こい笑顔を見たかったのだ。


一度しか行った事がない割にはすんなりと、加奈子は大輔のアパートに着いた。

空を真っ黒な雲が覆い、辺りは急に暗くなって雷がゴロゴロと鳴っている。今にも雷雨が来そうな気配だが、緊張しながら階段を上がる加奈子は、それを気にするどころではなかった。