「えっ?」


加奈子の聞き違いでなければ、剛史は今“大輔”の名を言ったと思う。


「剛史ったら、それは嶋田君の名前でしょ? 加奈子の彼氏の名前は寛さんよ? 香川寛さんっていうの」


加奈子の聞き違いでなかった事は、その母親の言葉ではっきりした。となると、剛史が言った意味は何なのか。加奈子はものすごくそれが気になった。


「香川? もしかしてそいつ、姉貴の上司か?」

「そうよ。まだ若いのに、部長さんだそうよ。男前でエリートで、加奈子にはもったいないぐらいよ。ね、加奈子?」


得意気に言う母親を無視し、加奈子は剛史の腕をむんずと掴んだ。


「剛史、どういう事か話して!」

「え? う、うん。でもなあ……」


剛史は怪訝そうに二人を見る両親に目をやった。ここでは話し辛いという事だろう、と加奈子は察し、


「上に行こう?」


と言って剛史の腕を引っ張った。そして、


「ちょっと、あんた達……?」


という母親の声に構わず、二人は二階へと上がって行った。