「話は変わるが……」

「あ、はい」

「今度、君の家にお邪魔したいんだが、いいだろうか?」

「私の家に、ですか?」

「うん。付き合うにあたって、きちんと君のご家族に挨拶したいんだ。どうだろう?」


そう言って香川は、探るような目で加奈子の返答を待った。


(親に挨拶か……。ますます引き返せなくなるけど、いいのかなあ)


躊躇する気持ちが加奈子にはあったが、心配そうに自分を見つめる香川を見て、加奈子は観念した。もう迷うのは止そうと。


「分かりました。いつにしますか?」

「そうか、ありがとう。出来れば今週末の土曜か日曜にどうだろう?」

「分かりました。両親に都合を聞いてみます」



小料理屋を出ると、二人は別れてそれぞれの駅へと向かった。

加奈子は歩きながら、香川と両親が対面する光景を思い浮かべた。おそらく両親は香川を一目で気に入る事だろう。そしていずれは自分が香川の家族に挨拶する日が来ると思う。そして、結婚……


それでいいのだと思う反面、少しも気持ちが高ぶらない自分に、加奈子は戸惑うのだった。