それから10日ほどが過ぎ、お盆の時期になった。取次店は一斉に休むし、この時期は昔から“夏枯れ”と言い、一年の内で最も本が売れない時期だ。従って書店からの注文は少なく、積極的な営業もしない。

加奈子が勤める出版社もその例に漏れず、あんなに忙しそうにしていた営業部長の香川も、このところはだいぶ余裕があるようだ。


加奈子が先に行き、後から香川が行く、というこのところのパターンで、二人は小さな小料理屋へ来ていた。


結局、加奈子は香川との交際を続けていた。香川が出張から戻ったら断るつもりでいたのだが、美由紀から大輔との事を告げられ、それを取り止めてしまった。


大輔に見込みがなくなったから香川で我慢……


そんな姑息な計算はなかった、とは言い切れない加奈子だが、冷静に考えれば自分と香川、大輔と美由紀の組み合わせはごく自然であり、収まるべくして収まったのではと思っている。ただ……


大輔への想いは、当分の間消えそうになかった。