その日の夜、志穂から加奈子に電話が来た。香川や大輔に関し、その後の経過を聞き出すためだ。加奈子は、香川とも大輔ともろくに話をしていない事を言った。そして、今日の昼に美由紀から聞かされた話を志穂に告げた。

それを聞いた志穂は、電話口で大きくため息をついた。


『手遅れだったのね……。それで、加奈子はどうするの?』

「私? 分からない……」


加奈子は本当に分からなかった。あれ以降、仕事は全く手に付かず、かと言って考える事も出来ず、したい事もなく、ただいたずらに時間だけが過ぎていて、強いて言えば眠かった。まだ夕飯を食べていないし、シャワーも浴びていないのに、この電話が終わったら寝てしまいたいと思っていた。


『こうなったら、このまま香川さんと付き合ってみれば?』

「うん、そうする……」

『あら。やけにあっさりしてるわね?』

「なんだか考えるのがめんど臭くて……」

『ちょっと、めんど臭いって……』

「ごめん。眠いからもう切るね?」

『ちょ、加奈子……』


加奈子は本当に通話を切り、ベッドに寝転んだ。美由紀の、昼に見たはにかんだような笑顔と、今日も口を聞いてくれなかった大輔を想いそうになったが、目をつぶるとすぐに、深い眠りに落ちて行った。