「部長さんと加奈子さんはとってもお似合いだと思います。幸せになってくださいね?」

「そんな、気が早いわよ……」


加奈子は無理をして笑顔を作ると、曖昧にそう答えた。

香川と自分が結婚して幸せになる事は有り得ない。香川が出張から戻ったら、“やっぱり考えさせてください”と加奈子は言うつもりだから。しかしそれを今、美由紀に言う訳には行かない。言えばおそらく香川に伝わってしまうから。人づてではなく、自分の口で伝えなければ……と加奈子は思った。


それにしても美由紀のこの笑顔は何なんだろう、と加奈子は思った。志穂から言われ、“ワナ”を仕組んだ美由紀を恨む気持ちが加奈子にはあったのだが、美由紀を見てると、この子に悪意はないのかもしれない、と加奈子は思えて来た。

元々美由紀は性格の良い子だと加奈子は思っていた。だから花火の夜は、単に“お似合いの上司同士”の縁結びを手伝い、自分の恋路を頑張っただけかもしれない、と加奈子は考えた。そう考えた方が自然ではないかと……


加奈子は、美由紀の笑顔に潜むドス黒い感情に、まだ気付いていなかった。