「加奈子、どうする？ 今ならまだ引き返せるんじゃない？」

「もう遅いよ……。香川さんに返事しちゃったもん」

「“ごめんなさい”って謝ればいいでしょ？ 素直に気持ちを言って……」

「気持ちって？」

「決まってるでしょ？ 大輔君が好きって事よ。今更違うなんて言わせないわよ？」


自分の気持ちについて、もう志穂にはごまかせないなと加奈子は思った。でも……


「私、香川さんの事も嫌いじゃない。香川さんって、結婚する相手としては理想的な人で、私にはもったいない人だと思ってる。あの人と結婚すれば、きっと私は幸せになれると思う」


それも加奈子の本心ではあった。志穂はそれを聞き、言葉が出ない様子だったが、意外にも祐樹が口を開いた。


「幸せって、そういう事でしょうか？」


二人の視線を受けても、祐樹の表情は揺ぎ無く毅然としていた。


「幸せって、愛する人と一緒になる事だと俺は思います。いい人だからとか、似合うとか似合わないとか、年の差とか、そんなの関係ないと思います。俺と志穂さんだって、中には反対する人もいましたけど、結婚して良かったなと思うし、今はとても幸せです。ね、志穂さん？」

「う、うん、もちろん幸せよ？ ところで誰なの？ 反対した人って……」

「や、それは言えません。聞かなかった事にしてください」

「気になるけど、まあいいわ。加奈子、私も祐樹に賛成よ？ もう一度考え直した方がいいと思う」

「俺からもお願いします。嶋田のためにも」


二人から真剣に言われ、加奈子は「わかった、そうする」と答えた。


香川には申し訳ないと思いつつも、大輔との事に道が開けた気がして、気持ちがどんどん明るい方向へ変わって行くのを加奈子自身感じていた。


もしこの後すぐに加奈子が行動を起こせば、まだ間に合っていたのだが……