3.
ぐったりと寝転んだ白いシーツの上で夜明けを待っていた。厚い遮光カーテンの隙間から忍び込むようにして朝(あした)がやって来る。泣きすぎた瞼が重い。この部屋中に、湖山さんを愛した自分の魂の抜け殻がうようよと彷徨っているのを感じる。絞りだしたその魂の抜け殻が、朝の光の中で昇華していくなら、重い瞼に焼きついた湖山さんの何もかも、もう過去のものだと言えるのに、ともすればその抜け殻たちは、またもとの住処に帰ろうとして蛹(さなぎ)になろうとしているようだった。蛹が胸の中のしこりを食べて大きくなっていくのが分かる。



朝を待っていたように携帯が鳴った。シングルベッドの端に腰掛けて震える携帯を手に取る。分かっていた。それは、湖山さんからだった。でも、もう出ない。出る資格が無い。振るえ続ける携帯を見つめる俺のことを、反対のベッドに寝転がった男が見つめていた。



「彼、ノンケなの?」
「・・・どうして?」
「失恋したのかなって思ってたけど、振った人が電話掛けてくる訳ないじゃない?」
「・・・」
「コヤマさんって人、幸せだよね。こんなに愛されてさ。羨ましいよ。」
「その分俺が惨めなんだよ」
「俺たちの恋愛が、惨めじゃなかったことなんてあるの?」

彼は細い体をかったるそうに起こしてベッドの上にあぐらをかいた。枕を膝の上に置く。

「俺、よかったらずっとコヤマさんの代わりになってあげてもいいよ。素敵だったから。誰かの代わりでも、あんな風に抱かれるのは、すごく良かったから。」

「もう、いいんだ。ごめん。本当に・・・すまなかった・・・」

「なんで?いいのに・・・」

惨めだ。本当に、とても惨めだった。ギシッと音を立てて男がベッドを降りると、背を丸める俺の横に座った。涙を零す俺の背中を湖山さんに似たその男が優しく撫でてくれた。その事が余計に俺を惨めな気持ちにする。