あのあと、先生にこき使われそうになったから、用があるって逃げるように音楽室を出てきた。
ホントはまだ授業中だから、どこにも用なんてないんだけど。
比較的人通りの少ない階段に腰を降ろして、もう一度整理する。
分かったな?て言われて肯いてはみたけど、俺のものって言われてもなぁ・・・・・・。
仮にも向こうは教師なわけで、あたしは生徒だよ?
先生の私物になんてなりたくないし、生徒を私物化できるわけもないと思うんだよ。
それに、"他の男軽々しく隣歩かせんな"の意味も分からない。
その前に柏木くんの名前を出してることを考えると、たぶん音楽が終わった後のことだと思うけど・・・。
そんなとこ先生に見られてたのかな。
でも、先生にあんなこと言われる筋合いないんだけど。
たとえ、あたしが先生の物だとしても、だ。
頭の中がもやもやしてきたころ、授業の終わりを知らせるチャイムが響いて、あたしはよっと立ちあがる。
教室へ戻れば、柏木くんが心配そうな顔をして寄ってきた。
「杏ちゃん、大丈夫なん?」
「うん、もう平気。ありがとうね。」
一応保健室へ行った事になってるんだもんね。
あたしの答えを聞いて、心底ホッとしたような顔になった。
春市先生の言葉が頭を掠めたけど、気にせず少しの間柏木くんと談笑した。