だいぶ消えてきた跡を抑えて、ちょっとだけあの日の帰りを思い出す。
動揺しかけたところで、珠樹の声が聞こえた。
「どこがいいの、あの人の。」
「へ?」
先ほどに続いて、またもや間抜けな声を出してしまった。
「杏子の話聞いてるとさ、あたしには理解出来ないなって思って。」
___うん、まあね、性格は悪いよね。
「それに、生徒に手出すとかただの最低野郎じゃん。」
___いや、うん、そうなんだよ。
「普段猫かぶってるってのもムカつくし。」
___あたしの前じゃドSの変態だけど。
「あの殺人スマイルの裏で、なに考えてんのかわかんないし。」
___たぶん、腹黒いことしか考えてない。
珠樹の言うことが、なにも間違ってないのが辛い。
そう言われちゃえば、あたしだってどこが好きなのか分かんなくなってくる。
「それになにより、大事な杏子のこと、振り回して、悩ませて、傷つけてるのが許せない。」
「・・・珠樹・・・。」
ここまで散々先生への毒舌を披露した彼女が、急に真剣なトーンでそう言うから、思わず泣きそうになったじゃないか。