「・・それで?どうするの、杏子は。」
しばらくスプーンで紅茶をかき回しながら考え事をしていた珠樹は、静かに尋ねる。
「どうって・・・。」
「その分じゃ、春市先生に好きとか伝える気はなさそうだけど。」
「そ、そりゃそうだよ。先生相手にそんなこと言えるわけないし。それに・・・。」
机に頬杖をついてこちらを見つめてくる珠樹と、しゅんと下を向いて縮こまるあたし。
別に責められてるわけじゃないけど、思った以上に大変な恋と向き合わなきゃいけないんだと、改めて思う。
「それに?」
「・・・・・好きって言った途端に、今までの関係が崩れるんじゃないかって思うの。そういう気持ちは見せないようにしてきたつもりだし、これからも見せてくつもりないし。」
普段よりは小さめな声だけど今の気持ちを伝えれば、珠樹はふーんと頷いた。
これだけ先生のそばにいて、春市ファンからなにも言われないのは、あたしにも先生にも特別な気持ちがないって思われてるからだろう。
あたしの気持ちが露呈したら最後、ものすごい僻みを受けることは間違いない。
それが怖くないと言えばうそになるし、実際頭の隅にあるからこうして守りに入ってるんだ。
「・・でもさ、それいつか辛くなるよ。そんなに近くにいるのに、向こうの気持ちわからない上に自分の気持ちすら隠さなきゃいけないなんてさ。」
まるで自分のことみたいに切ない顔で珠樹が言う。
「うん・・・。」
なってみなきゃわからないけど、それくらいの覚悟がなきゃ近くにはいれないんだって分かった。