“杏ちゃんが春市先生のこと好きやとしても、諦めへんよ?”
柏木くんと別れて、いつもより遅いスピードで帰り道を歩きながら、その言葉が頭の中をぐるぐると回る。
“なんか勘違いしてるみたいだが、あんこは俺の雑用係って意味だ。お前の女だろうがなんだろうがどうでもいい”
柏木くんの言葉を思い出すたびに、先生の言葉も一緒に出てくる。
もう、なにがなんだか分からない。
どうせ雑用係くらいなのだろうとは思ってたけど、じゃあ手出すなって表現は間違ってる。
あんな言い方されちゃ、勘違いして期待してしまっても仕方ないのに。
あたしが先生を好きだなんて口が裂けても言えないけど、先生が少なからずあたしに好意を持っていてくれるんじゃないかとは、思ってたのに。
それすらも裏切られた気分で。
ただ・・・、これからも先生からの呼び出しがあることは決まってる。
それはつまり、みんなより先生のそばにいられるってことで。
それが若干の救いになってるあたり、もうダメかもしれない。
どっちにしても、柏木くんを傷つけたことには変わりない。
だってほら・・・。
「・・・残ってるもんね、これ。」
首筋にくっきり咲いた赤い華。
同じ場所に顔を埋めた柏木くんには、確実に見えてしまっていただろうし。