保健室での先生の顔が一瞬頭を掠めて消える。
足音が大きく響いて、段々近づいてきてるのが分かる。
柏木くんはあたしを抱きしめた腕を解こうとしないし、むしろあたしが振り向くのを阻止してるんじゃないかってくらい強まってる。
「よう、柏木。それと・・・あんこか。」
一段と低くなった声で呼ばれて、びくっと体が反応する。
いつもみたいな殺人スマイルを浮かべた先生は、きっと今はいない。
「今、真剣な話してるんです。邪魔せんでもらえますか。」
柏木くんの顔はやっぱり真剣で、まっすぐ挑むような目で先生を見てる。
「・・悪ぃがあんこは俺んだ。手出すな。」
「いつから先生のもんなったんすか。3か月も前から、オレのもんです。」
あたしは誰のもんでもないわっ。
心の中では反論できても、この2人の空気に口を出せる勇気はない。
「なんか勘違いしてるみたいだが、あんこは俺の雑用係って意味だ。お前の女だろうがなんだろうがどうでもいい。」
グサグサと刺さる言葉を残して、先生はその場を去ったようだ。
・・・そうだよね。
ただの雑用係なんだよね、あたしは。
なんでちょっとだけ期待とか持っちゃったんだろう。
っていうか・・・ただの雑用係なら、キスしたり跡残したりすんじゃねぇ!!
怒りと、なぜだか少しの悲しみで、涙が溢れ出そうになるのを必死にこらえた。