”なんとか抑え込む!”
そう思う直人の脳裏に、グランドスタンドの映像が浮かんだ。もちろんそこに玲美はいない。きっといないだろう。いてほしい。でも、きっといないだろう。
”怖い!”
何故か、直人はグランドスタンドに戻るのが怖くなった。きっと玲美はいないだろう。“来てくれる”、そう心のどこかで思っていたことが、もろくも崩れていくのは目に見えている。一瞬、タンクに貼ったステッカーが目に入った。しかし、それを見てあの大晦日のような安心感を覚えることはなく、むしろ反対に、マイナスのイメージを背負ってしまった。
”俺はなんて憶病者なんだ…”
「くそっ…」
直人のマシンは、コースから離れ、サンドトラップを突き進み、タイヤを積み重ねたタイヤバリアへ一直線に進んでいた。そのさなかも、直人は必死でマシンをコントロールしようとしていた。だが、それは全く無意味なことだった。一直線にタイヤバリアへ。そしてそのタイヤにぶつかる寸前に、直人の体は巨大な何かの力によって、マシンから引き剥がされていった。直人は砂の上で舞い、マシンはタイヤの山に突っ込んだ。
まさに完全な転倒だった。