学校の準備をして、一階のリビングに降りていった。
リビングのダイニングテーブルには朝食が置かれていた。
「はよ~」と台所にいる母親に声を掛け、椅子に座りながら焼いてある食パンに手をだした。
ジャムはどっちがいい?と向かいの席からたちながら母が聞いてきた。手の平にはイチゴのジャムと片方の手にはマンゴーのジャムがあった。


「……バターないの?…」

母さんは俺の質問には無視をして手に持っていたジャムを冷蔵庫に仕舞おうとしたので、俺はイチゴで!と声を出した。そう言うと母さんは満足そうな顔でイチゴジャムを持って椅子に座った。
朝は特別用事がないかぎり、母さんと2人で朝食を食べるのが日課だ。いや、朝に限らず夕食もそうだ。父が居ないのは、いつからだろうと考えても分からない。 居ないのがあたりまえになりすぎているから。


食パンにイチゴジャムをぬって一口食べると母さんがテーブルに両肘をつけ頬に両手をつけて俺の反応を見てきた。


「甘い、けど食べられなくない。」
「甘いのがおいしいんじゃない。」男は甘いのが苦手なんだから~と母はマンゴージャムの味を確かめていた。
母さんはお菓子作りなどが趣味らしく、いろんなものを手作りしている。

「また、作ったジャム持っていくんだろ。」
ウェーブのかかった肩下くらいの髪をまとめながら、そうよ~と軽い返事をしながら仕事に向かう支度をしていた。

母は看護師として近くの総合病院で働いている。その看護師仲間にお菓子など持っていくことがあった。その度に味見という毒味?をさせられていた。きっとバターはあったに違いない。

俺は洗面所でワックスで髪をととえながら、「前から言ってるけど俺甘いの苦手だから、もう勘弁してくれよ」母さんに何気なく言うと、直樹しか食べてくれる人いないんだもん…と実際の年齢より若くみられる、その童顔な顔は心なしか泣いているような表現にも見えた。

俺より先に家をでる母は「戸締まりはしてね。あっまだ雪降ってるからね」と車のキーと作ったジャムの小瓶を何個か仕事用の鞄に入れ、行ってくね~と手をヒラヒラさせながら玄関のドアを開けて仕事場に向かった。