その時、もう瑠奈ちゃんの事なんて正直どうでもよかった。
ただ幼いながらにも"男"としての負けたくないって気持ちが強くなっていた。しかし俺もずるい。
"縄跳びの二重飛び"は俺が一番得意とするものだったからだ。後ろめたい気持ちがないとは言えなくはない。
フェアじゃない気もしないと…
こっちが決めてあっちがいいと決めたからには、あいつも自信があるってことか?
俺の中であいつには全力でやらないと負けると"本能"が訴えかけている。

保育所から家に帰るとスモックを玄関に乱雑に脱ぎ捨て縄跳びを持って庭にでた。いつも母が"帰って着たら洗い物は洗濯カゴにいれてよ"と言ってやらなかったら怒られるが、今はそれどこじゃない。
あいつによりも一回でも多く飛ぶ。
負けたくない。
夕方のテレビで大好きな戦隊ヒーローやガードゲームのテレビが放送するが、そんなものにも目もくれず、練習に没頭した。

きっとこの時に"努力"を覚えたかもしれない。


夕御飯は俺の大好きなハンバーグだった。普段より体を動かしたせいか、いつもの倍はご飯を胃に収めた。
ご飯を食べ終え歯を磨いていると、父が仕事から帰ってきた。


「ただいま」とリビングに父が入ってくると、男物のコロンと髪につける整髪剤の匂いが漂ってきた。
母とは違う臭いだが、それが"父親"の匂いとして記憶されている。
椅子に鞄を置きながら、右手でネクタイを緩めながら
「直ー風呂入るぞー」と父の声が洗面所まで聞こえた。

「ふぁーい」と口を半開きに開け返事をして急いで歯をゆすいだ。


二階の自分の部屋から着替えを取りに行き、お風呂に入った。
平日は父とお風呂を一緒に入るのを楽しみにしていた。