ほとんど無意識に、自転車に股がった。
早く。
一刻も早くここから立ち去らなければ。
何度もペダルを踏み外しそうになった。
よろよろと蛇行しながら自転車をこいだ。
どこをどう、走ったのかよく覚えていない。
気が付いたら。
家の前に居た。
いやいやいや。
学校行かなきゃ、学校。
何やってんだ、あたし。
学校に行って。
のんに、山下先生に。
……何て言う?
分からなかった。
目の前で起こっていたことが、そもそも理解できていない。
瑠樹亜が。
瑠樹亜で。
瑠樹亜の……
「わああああ……」
頭を掻きむしりながら、あたしは冷静さを取り戻そうとする。
何だったんだろう。
何だったんだろう。
けれども考えれば考えるほど分からなくなる。
瑠樹亜がえっちなことをしていた。
あたしが想像することすらできないようなことを。
しかも相手は、あのベンツのヒトだった。
多分。
あれは……
お母さん?
何かの間違いだろうか。
間違いだろう。
きっと、何かの「ごっこ」に違いない。
恋人ごっことか、夫婦ごっことか。
ああ。
あたしの耳に、イタリアのオペラがこびりついている。
うるさいうるさい、うるさい!
「うるさい!」
思わず、声に出てしまった。