のんが転校してきて、クラスが明るくなった。

のんが視線を集めてたので、何となく、あたしへのみんなの態度も気にならなくなった。



そんな、ある日のこと。



「二谷さん、お弁当、一緒に食べない?」


のんが話しかけてきたのだ。
無邪気な微笑みで。


「あ……」


久しぶりにクラスメイトに話しかけられたあたしは、声が出なかった。

その微笑みが眩しくて、何度も瞬きをした。


「二谷さん、いつもなに読んでるの?」

「わたしも、推理小説なら少し読むよ」

「今度、図書館、案内してほしいな」


のんは黙ったままのあたしに、一方的に話しかけてきた。
あたしの机の上に、美味しそうな弁当を広げて。


のんのお弁当入れには、可愛いウサギのアップリケがしてあった。

あたしはそのウサギを見つめながら、涙をこらえるのに必死だった。

ウサギが、だんだんぼやけていく。



「のぞみちゃん、ありがとう……」


そう小さく言葉にするので、やっとだった。


「のん、でいいよ。みんなそう呼んでるし」


「……うん、ありがとう」


教室で笑ったのはいつぶりだろう。

あたしはぎこちない笑顔でのんの優しさに応えた。