「章江は病院を出たら、向こうの施設に預けられることになってる」
「……向こうの?」
「母親が迎えに行きたいって言ったらしいけど、断ったって。
章江は、あの土地で、生まれ変わりたいんだって」
「……生まれ変わる」
……『ひよに生まれたかった』
そう言った美山さんの横顔が……
脳裏に浮かぶ。
ちらり、と視線を隣に泳がせると。
瑠樹亜は、真っ直ぐに前を見据えていた。
その横顔は、あたしが知っている瑠樹亜とはどこか違って。
どこがとか、どう、とか。
わからないんだけど。
すごく、大人の男の人みたいに見えて。
否応なく、あたしの胸を高鳴らせる。
ドクンドクン。
ドクンドクン。
瑠樹亜の横顔に見とれていると。
ふわり、と。
風が、チョコレートの匂いを運んできた。
「時間は、かかるかもしれないけど」
落ち着いた、瑠樹亜の声。
「世界は変えられると思う」
そしてパリンと音を立てて、瑠樹亜はチョコレートを頬張った。
……そう、確かに。
この世界を変えるためには、時間かかるかもしれない。
理不尽な、この世界は。
あたし達をくるんで、どんどん進んで行く。
時には耐え難い痛みもある。
血の吐くような辛さも。
……だけど。
うん、だけど。
あたし達は小さな変化を、この手で作り出すことができる。
些細なことでも。
誰かの役に立てるかもしれないように。
そうしてあたし達は、その変化に乗って。
この世界を生きていく。
その変化もまた、きっと。
些細なことかもしれないけれど。
変わり出したらきっと。
誰にも止められないことなんだ。