「これで僕は、いくらか楽になった。
もう、飼われることもない。

章江と、二谷のおかげだよ」



そう言ってチョコレートをかじりながら、瑠樹亜があたしを真っ直ぐに見るから。

くらくらして。
また、いつかのように、鼻血なんか出ちゃいそうで。


「……そんな……」


バラバラになっていたピースが。
カチンカチンとはまっていくみたいに。

あたしの心が、満たされていくのが分かる。


あたしの中に。
じわじわと、瑠樹亜が溶け込んでくるみたいに。



「今考えると、何でもっと違う形で逃げ出せなかったのかって思うこともある。

だけど、あの時は、あれが僕たちの精一杯だった。
他に方法を知らなかった」


「……うん」


「僕も章江も、何年もサイアクな世界で生きてきたけど。
変わるきっかけは、一瞬だな」


一瞬。

少しでも、変わったんだろうか。
これからも、変われるだろうか。


瑠樹亜がそう言うなら、きっと……

あたし達はどこか。
変わることができたんだろう。



「二谷、お前が、変えたんだよ」


「そんなこと……」


ない。
と思う。

あたしは無力で。
ただ頷いてあげることしかできなかった。

大丈夫だよって励ましてあげることも。
頑張ろうって言ってあげることも。

怖くて何もできなかったのに。


「章江が言ってた。
二谷をこの世界に置いていくのが、すごく惜しいと思ったって」


「……え?」


「だけど一緒には連れて行けない。

二谷ともっと話したい、一緒にいたいって思ったら、直前になって足がすくんだって」


「……美山さんが……」


そんなことを?
まさか。


だって、あたし……

彼女のためになんて、何もできてない。



「会いたいって」


「……」


「章江が、お前に会いたいってさ」