「ひよー!!」


のんが、あたしを呼ぶ声がして。

あたしと美山さんの世界は、一気にこの場所に戻った。


川の音。
風の冷たさが。

一気にやってくる。



「はーい!!」


大きな声で向こう側に返事を返すと。


「じゃあ、ひよ、またね」


そう言って美山さんが手を振るから。

うん、と言って別れた。



……別れた、けど。

なんだろう。
引き留めなきゃいけないような気がして。
あたしはもう一度、美山さんの方を振り返った。


美山さんの背中は小さくて。
暮れかけている河原では本当に頼りなくて。

今にも。
消えてしまいそうで……



「みや……」


「もう行く時間だからー!!」


けれど、あたしが美山さんを呼び留めようとするのを。
のんの声が、遮った。


「あ、うん!」


のんの声にそう返事をして、もう一度美山さんを振り返った時には。
もう、茂みの中に体をほとんど隠していて。

あたしは呼び掛けるのを、仕方なく諦めた。



「瑠樹亜くん、もう、行くって」


それから、まだ文庫本を広げている瑠樹亜にそう声をかけると。


「聞こえてる」


冷めた声が。
返ってくる。