『そんなことないよ』なんて。
簡単に言えない。

『大丈夫。いつかは報われるよ』なんて。
絶対に言えない。



あたしはただ黙って。

スポンジのように美山さんの言葉を吸い続けた。


それは、辛いことや、悲しいことや。
痛いことが多くて。

あたしの心は時々ズキンと反応したけれど。

美山さんの声は穏やかで、優しかったから。
それをじんわりじんわり、和らげてくれたりもした。


不思議な気持ちだった。

この世界に、二人だけになってしまったみたいに。


後ろの木陰に座っている瑠樹亜のことも。
遠くで騒いでいる、のんや向井達のことも。

まるであたしとは無関係のものみたいになって。

ただここに。
あたしと美山さんと。

言葉だけがあるみたいで……




「聞いてくれてありがとう」


と、美山さんは笑う。


「こんなに誰かに話をしたのは。
きっと、ひよが初めて」


そう言って、本当に、心から嬉しそうな顔をして。


けれど。
あたしは何も言ってあげられなくて。

言葉が何も見つからなくて。



「あたしでよかったら、いつでも、聞くよ。
……こらからも」


それだけ言って。
笑って。

美山さんに貰った帽子をかぶって見せた。


美山さんは「似合う!」って。
大袈裟なくらいに誉めてくれて。


あたし達は、あたし達を。

特別な相手なんだって。
何となく、認識した。