「……だから、この帽子、ひよがもらってくれない?」
突然、そう言って。
美山さんが帽子を差し出した。
ゆらゆら。
美山さんの手の中で。
帽子が揺れる。
「ふぇっ、なんで?」
あたしは驚いて、変な声が出てしまった。
なんで、あたしなんかに。
こんな素敵な帽子を。
美山さんの方が、ずっとずっと似合ってるのに。
「ひよには、本当によくしてもらっから……
何か、ひよに貰ってもらいたいって、思ってたんたけど。
私、持ち物もほとんど父に管理されてて……
ごめんね、こんなものしか、あげられないけど」
申し訳なさそうに、眉をひそめる美山さん。
「いいよ! そんな、大事なもの!
お父さんとの思い出なんでしょ?」
大きく首を横に振る。
本当のお父さんとの思い出。
そんな大切なもの。
あたしなんかが貰うわけにいかない。