「かわいいね、その帽子」
「ほんと? ありがとう」
「よく、似合ってる」
「本当のお父さんが、買ってくれたんだ」
美山さんはそう言って、かぶっていた帽子を手に取る。
それから、すごくいとおしそうに眺めた。
お花のモチーフは、何て言うか、繊細にできていて、可憐で。
美山さんそのものみたい。
本当の、お父さん。
喫茶店で会った時の彼女を。
また思い出した。
「でも、これがあるから、駄目なのかもしれない」
「……ダメって?」
「ついつい本当のお父さんの思い出に浸っちゃって。
……父に、冷たくされちゃう」
「……」
子供が本当の親を思って思い出に浸る。
そんなの。
当たり前のことなのに。
本当とか、今の、とか。
あたしにはいないけど。
お父さんもお母さんも一人しかいないけど。
そのくらいのこと。
あたしにだってわかる。