「だから、精神的に落ち着かない時はチョコレートを食べるようにしてる。
あの女に、飼われる時は、特に」
……あの女。
凪さん。
あの時も、あの時も。
瑠樹亜は凪さんに飼われる直前だったんだ。
真っ赤なドイツ車。
悪魔みたいな車が。
瑠樹亜を迎えに来る。
「……悪かった」
甘いチョコレートの香りの中。
ポツリ、と、瑠樹亜がそう呟いたように聞こえたから。
「え?」
思わず、聞き返してしまう。
「悪かったな。
今日の、アレは、お前に言ったわけじゃないから」
今度はハッキリと、あたしの目を見て言った。
瑠樹亜の目が。
あたしの目を見ている。
それだけで……
あたしの心臓は止まりそうだ。
じわり、と。
最後のチョコレートが。
口の中に甘く広がった。
「僕の勘違いなら、いいけど。
二谷、すげー顔してたからさ。
ちょっと、傷付けたかと思って」
「……」
うそ。
誰か、嘘じゃないと言ってください。
瑠樹亜が。
瑠樹亜があたしに謝ってる?
「……なんで」
「なんでって、何」
「そんなこと……」
「悪いかよ。
僕が謝ったら」
悪くなんかない。
悪くなんかないけど、そんなの。
「……何で泣くの」
嬉しすぎて。
「……変な女」
涙腺ぶっ飛んじゃうよ。