「……」


「……」


しばらく二人で、黙ったままチョコレートをかじっていた。


庭には、名前の知らない木や草が生えている。
黒い影になって、地面にへばりつていた。

きっと昼には花も咲くんだろうけど、夜に
は花弁を閉じちゃうんだろうな。


「瑠樹亜くん、いっつも、チョコレート食べてるね」


「……」


「屋上で会った時もそうだった。
その前に……一年の時かな、屋上で見かけたときも、チョコレート、食べてた。

チョコレート、好きなの?」


あたしの質問に、瑠樹亜は何かをじっと考えているみたいだった。

チョコレートの甘さを堪能しながら。
返事を待つ。



「好きっていうか、落ち着く」


「落ち着く?
甘いから?」



「母さんの、味がするから」



……母さんの、味。

意外な返答にびっくりしていると。


「死んだ母さんが好きだったんだ、チョコレート。
死んだ日の朝も、チョコレートを食べてた」


「……」


真っ直ぐに、答えた。

瑠樹亜の言葉はどこも歪んでいなくて。
真っ白な気持ちが乗っているみたいだった。


「……そうなんだ」


チョコレートは……

死んだお母さんの味、なんだ。