「父は、私がお父さんに似ているのが、きっと気に入らないのよね。

私は父に従順にしているつもりだけど、目が反抗しているって、よく叱られる」


そう言って美山さんもオレンジジュースを一口、飲んだ。
それから、ビスケットを小さな口に入れる。

ゴリ、ゴリ、と、重たい音がした。



「……お母さんは……?」


あたしの質問に、美山さんは小さく首を振る。


「あの人は、父に完全に支配されてるから」


……支配。

その言葉の本当の意味は、あたしには多分、とても理解できない。


「父には逆らえない。
何があっても。

あの人は、ただ父のご機嫌をとって、笑っているだけ。
まるで、お人形みたいに」


「……おにんぎょう……」


呟いて、窓の外を見る。

ポツリポツリと、雨が降り出していた。

傘を持って行きなさいと言った、お母さんの顔を思い浮かべる。

美人ではない。
太っているし。
髪はいつもボサボサだ。

だけど、多分。
誰にも支配はされていない。



……美山さんのお母さんは、きっときれいな人なんだろうな。

そんなことをぼんやりと考えた。