「私も。
背中やお腹を殴られることはあったけど、頭を殴られたのは、初めてだったから。
びっくりして、血がいっぱい出だし。
気を失っちゃった」
「……え」
……何でもない顔をして、言う。
まるでそれが。
普通のことのように。
血が出ちゃったよ。
びっくりしちゃったって。
そんな軽いノリで。
「叩かれるのは、昔から。
父は、道具を使わないから、まだいいけど」
……昔から。
なんて。
どうして。
あたしは、口を開けたまま。
美山さんの表情は読み取れない。
読み取れずに。
ぐらんぐらんな世界を……
見ている。
「父はね、本当のお父さんじゃないんだ。
本当のお父さんは母と同じ看護師をしていて……
今は遠い病院に勤めてる」
……本当のお父さんじゃない。
それは、よくある話、かもしれない。
離婚したりとか、再婚したりとか。
大人の事情で、子供が振り回されるのは、きっとよくあることだ。
けど、だけど、それが。
殴ったりする理由にはならないはずなのに。