「……は……こ……こ?」



あたしの口は無意味にパクパクと動く。

殺されかけた。
美山さんが?

親父。
お父さん?
なんで。

あたしの頭の中はバラバラだ。


けれど、文庫本に視線を落としたままの瑠樹亜の表情は変わらない。



「章江の親父は狂ってる。

章江の精神をめちゃくちゃにした上に、今度は命まで奪おうとした。

まあそれも、上手いこと揉み消さされるんだろうけどね。
権力者は、善にも悪にも、惜しみ無く自分の力を使う」


淡々と瑠樹亜がそんなことを言うから、あたしは一瞬、小説の一文を読み上げたのだろうかと思った。

そのくらい。
瑠樹亜の言葉には感情が見当たらない。



「……て、え?
瑠樹亜くん、それ、何のはなし?」


そう問わずにはいられない。

だって、まさか。
それがこの世界の。
わたし達のすぐそばで起きていることだとは思えない。


殺すとか。
殺されるとか。

死ぬ、とか。



「この、くだらねえ世界の、本当の話」



だけど瑠樹亜は。
いたって真面目な顔だ。