あの日から、あたしは時々瑠樹亜に呼び出された。
あたしのスマホに「瑠樹亜」と表示されると、その度に胸がきゅんと痛む。
すごく嬉しいけど。
すごく悲しい。
だって瑠樹亜の側にはいつも、美山さんがいたから。
「章江がお前に会いたいって」
瑠樹亜があたしに電話をかけてくる理由はいつもそれで。
そこに瑠樹亜の特別な意思なんかない。
瑠樹亜はただ美山さんの隣に座って、文庫本を広げているだけで。
時々にゅうっと手を出してはポテトをつまんだり。
ジンジャエールを飲んだりするだけ。
あたしってなんだろう。
瑠樹亜にとってなんだろう。
嬉しそうに話す美山さんの顔を見ながら、時々ちらりと瑠樹亜を盗み見る。
けれど、瑠樹亜は一瞬でもあたしに視線を合わせない。
あたしってなんなの。
美山さんの話し相手なの。
瑠樹亜から電話をもらってうれしくて。
早足でくるのに。
自転車とばしたり、お母さんにお願いしたりして、飛んでくるのに。
瑠樹亜の視界にあたしは映らない。
贅沢なんだろうか。
贅沢なんだろうな。
だんだん悲しくなって。
どんどん負のスパイラルに陥る。
だけど電話が鳴れば断れない。
瑠樹亜の声があたしを呼べば。
あたしは飛んでいくだけ。
そんなことの繰り返し。