聞き覚えのある一喝に、ごくりと唾を飲み込んだ。


「今どこにいる! 取引先は勢ぞろいで、もうお見えになっているぞ! 万が一の為に10分前には会社に来ているように言っておいただろう!?

お前、サラリーマンを何年やっているんだ? 会議に参加しない気か!!!! 馬鹿が!」


「……申し訳ございません。娘の調子が悪く、家を出るが遅くなりまして」


「言い訳はきかん! お前、出世する気があるのか? 本当にこの会社の一員なのか? タクシーでもなんでも使って今すぐに来い!!!! 資料を持っているんだろう!」


限られたこづかいしか貰っていない俺が、タクシーで通勤したら、いくら掛かるか分からない……。そんなの無理な話だ。


「す、すみません。今手持ちがなくて……」

「はぁ? 会社は月にちゃんと金を支払っているだろう!? 金がないとは、どういういい訳だ!? 借金してでも早く来い!!!!」


「はい……申し訳ございません、今すぐに行きます――」


――ツーツーツー


通話が切れると、暗闇がどこから沸いてでてきたように、俺をそっと包み込んだ。