用事なんてないけど。
正、正は気づかないよね、きっと。
いや、誰も嘘なんて気づかない。

だって、私に感心がある人なんてこの教室には…この世界には存在しないから。

先生はわかった、と言うと少し安心したような心細そうな表情を見せた。

「お前ら全員うぜぇ。
涼太、お前も調子乗ってんなよ」
正臣は私が直した机をまた蹴り飛ばす。今度は、直さなかった。
涼太は罰の悪そうな顔をして正臣に手を上げてごめん、と合図をするとそのまま教室から出て行ってしまった。

涼太、大丈夫かな。

そんな涼太を目にも止めずに春は私の元へ来ると、涼太ではなく私の心配をした。
「用事ってなに?どうしたの?」
「ちょっと家の用事、お父さんのね」
これも嘘、きっと春も私の言葉が嘘なんて気づかないだろう。

「そっか、気をつけて行ってきてね」
春はそう言うと寂しさを隠さずに私を見つめた。私はその目を見ることは出来なかった。

ーやはり、誰も気づきはしない。その事に嬉しさを少しと悲しさを少し感じた。

「じゃ、私帰るね。春、今日正達が何かやらかさないか見てて。頼んだっ」
私は敬礼のポーズをしながら笑みを浮かべて冗談を言って。そして教室を出た。



きっと、私が居なくなっても誰も困らないだろう。
正達は春が止めるだろうし、涼太は春がいればそれでいいだろうし、正は…




正は、きっと、なにも、変わらないー