アパートの階段を上る足取りも軽かった。

今日はこれから、楽しいことが待っているに違いないから。

なのに、ドアを開ける前に聞こえてきたのは、航佑の怒ったような声だった。



誰か、いる?

聞いたことがない航佑の声に戸惑いながら、そっとドアを開けてみると、目に入ってきたのは見覚えのある靴。

いつもカツカツと嫌な音を立てるエナメルのオープントゥのパンプスは、間違いなく真由子さんのもの。

ショックで胸を撃ち抜かれる。

驚き過ぎて、声も出せない。



「約束が違うじゃないか。お願いだから、早く帰ってくれよ。」

「イヤ! 出て行ったら、二度と入れてくれないくせに。」

「最初から入れるつもりなんかなかったよ。勝手に入って来たんだろ?」