そんな2人には構わず、清明と道長の話は進んでいた。


「それで道長様。本日は随分と急な訪れですが、如何なるご用件でございましょうか?」


あの、清明が、謙っている!


マイペースかつ腹黒い清明しか知らない透理は、几帳の裏で盛大に吹いた。


「まあ、いくら希代の陰陽師と騒がれる清明とて、殿中での位は決して高くはないからのぉ…。禄を得る為には表向きくらい上司を立てる必要かあるということじゃな」


くつくつと、玉若が面白そうに喉を鳴らして笑った。


日頃、清明の傍若無人な言動に悩まされている透理からすれば


少しはこちらの気持ちも分かっただろー!
あっはっはっ!


と高笑いしたくなる気分だった。


あの清明がどんな顔で謙っているのか?と無邪気な好奇心と、後で笑ってやる!という企みから、つい鏡を覗いた人間の女と妖の女。


透理と玉若は、清明の背後の几帳に隠れているため、清明の表情は2人からはその背に隠れて見えていない。


しかしながら、仕掛けた鏡には清明のにこやかな笑顔が映っている。


……。


透理、玉若共に、不本意ながら暫し無言で硬直。


「た、玉ちゃーん。アレって、清明絶対怒ってるよね…?」


一見人畜無害のような人好きのする穏やかな笑顔だが、それこそが清明が腹を立てている時に見せる、鬼の笑顔。


それは透理が安部邸に世話になるようになってから、最初に知った清明の取り扱い注意事項だったりする。