「葵、ちょっと話があるの」


珍しく真面目そうな母の顔に私はゆっくり「ゴクンッ…」と唾を飲む
母は少し下を向き、「はぁ…」と溜め息紛れの深呼吸をした

「葵……アナタ……」

母は「スゥー」とさりげに息を吸った


「男子校に入学しない?」


母の非現実的な言葉につい逃げてしまった
危ない、危ない……。
もしかしたら聞き間違いかもしれない
もう一度聞いてみよう

「今……何て言いましたか?」
「男子校に入学しないか?って言ったわ」

私は咄嗟に頭を押さえて目を瞑る
きっとそうだ。
アレだ。……アレ。
母は多分日頃の疲れが溜まっているのだろう
だから、あんな非現実なことを言ってしまったのだろう

「お母さん、いくら疲れてるからって変なこと言っちゃダメだよー」
「本当の事よ」

嘘………ですよね?
だって私、女だよ?

「その男子校は黒猟高校って言うんだけど……」

黒猟高校………
ここら辺に住んでいる人は皆知っている
その高校は半端ないほどの

"不良校"!!

そこの生徒が現れる場所には事件ばかり起きると言われていて
そこの制服を着ているだけでまわりの店は入店禁止になる

私は口をあんぐりと開けたまま閉じれなかった

「なんで!!よりによって黒猟高校なの!?」
「しょ、しょうがないじゃない!!だって…………っ」

母は口元を押さえ、言葉を止める
そして何回かこちらを確認すると口を開いた

「が、学費が………」
「学費が何?」
「学費が無料だったんだし………」

私は重力に従うように消えそうな音をたてソファに座った
私の家は裕福とは言えない
母が"学費無料"に靡くのも分かる
確かに母の気持ちは分かる
分かるが…………。

「なんで黒猟高校なの……」

私の人生、badendかも……。