「えっ!MITSUBAに就職したって!?」

麗加の声が穏やかなカフェ内に響いた。
周りの客の視線が集まり、麗加は慌てて両手で口を塞いだ。

「うん。架の紹介で雇ってもらえることになったの。パートだけどね」

わたしはそう言い終わると、冷めかけたカフェラテが入ったカップを両手で覆った。

「えっ、架くんってMITSUBAで働いてたの?」
「うん、そうだけど…なんで?」

麗加は開いた口が塞がらないようだった。

「幸ちゃんもMITSUBAで働いてるの。営業課長やってるのよ」
「そうだったの!?」

“幸ちゃん”とは、麗加の好きな人。
わたしは会ったことはないが、麗加の話の中によく登場するので、名前だけ知っていた。
親同士が仲良くて、小さい時からの片想いしてるらしい。

「いつから働くの?」
「まだわかんない。とりあえず、明日契約書を書きに行く予定」
「幸ちゃんに言っておくわ!友達が入社するから宜しくねって」

そう言うと、麗加はカップに半分ほど残っていたミルクティーを一気に飲み干した。

麗加は独占欲が強く、嫉妬深い。
“幸ちゃん”とは、あまり関わらない方が良さそうだ。
まぁ、わたしは事務員として入社するし、営業課長の“幸ちゃん”とはそれほど関わる機会はないだろう。

そう思っていた。