「(……ばっかみたい)」 いつまでも昔のことを引きずっている自分が鬱陶しかった。 どうせ、彼は何も覚えていないのに。 わたしだけ、過去に縛られているなんて。 ほんとうに…ばかだよ。 もう一度、流れる汗を拭いた。 ハンカチを鞄に押し込み、ひとつ深呼吸。 厭味のように一瞬だけ鳴り止んだ蝉の音を合図に、全力で走り出した。 ―――未練を残したあの夏を、振り切るように。