「坂木がな……いなくなった」


僕は、たくわんをぽりぽり囓りながら聞いている。

琢磨も僕に視線を移すでもなく、そのままの姿勢で話し続けている。


「電話を掛けても繋がらない」

「…………」

「昨日、何があったかは聞かない。情けない話だが、この件に関しては、もうオレ達の手を離れた。警察に委ねた」


琢磨はそう言いながら、僕の机の表面をじっと見ている。

薄くなったが、まだ残っているマジックの跡。


「これな、すまんな。結構、頑張ったんだが消えなくてな」

「先生が……?」


僕が退院してきた日、マジックは薄くなっていた。

誰かが消してくれたのかと一瞬思い、そんなはずはないと打ち消した、あの黒い言葉たち。

それが琢磨だった。

にわかには信じられない。

だが、今までの琢磨とのやり取りを、自分の都合の良いように解釈してみると、腑に落ちる点もある。

いや、そう思いたがっている自分がいることに気づいた。