二日して、またあの場所まで行ってみた。
やはり彼は、そこにいた。
「あ」
紺色の着流しの、ほっそりとした青年。
こちらに気づいたからか、青年は岩の端に寄ってくれた。
「――座らないの」
躊躇ったまま突っ立っている自分に、彼は不思議そうに尋ねた。
それが、やけに嬉しかった。
日の光の下で、今度こそはっきり自分を見ただろうに、やはり彼は、表情を変えなかった。
「なによんでるの」
聞くと、彼は膝から捲っていた本を持ち上げた。
「『青蛇草子』。好きなんだ」
字は読める。
覗きこんで、一緒に文字を目で追った。
青年からは、涼やかな良い匂いがした。