両肩にそうっと回った腕が、胸元で組まれる。
肩口にあたる十希の息が、湯気のように熱かった。
「……要」
耳に沁みてくるような優しい声で、十希はかなめ、と口ずさみ、時折唇で要の頬に触れた。
「十希……」
じゃれるように腕をゆすり、甘えるように頬をすりつけ、寒がるように要にくっつく。
「――要、好き」
幾度も言われたこの言葉に、要は返したことがない。
返さなくても、十希は気にしない。
「大好き」
ちりっと痛んだ感情を忘れようと、要は十希の組んだ手に自分の手を重ねた。
耳元で、声になる前の喜びが笑んだ息になった。