「去年はどれ着たんだっけ……。この赤いのじゃなかったかな?」
「ん……それ、だったかな」
「じゃあ今日はこれにしようよ!」
十希は、濃い緑の地に紅葉とすすきを織り出した見事な一着を取り上げた。
秋祭りは三日間続く。
一日目と二日目の夕方に行われるのが、ヒトガタの姿現しだ。
屋敷の、外に面した廊下に座を設けて、ひたすらやって来る人々の願いを聞くのだ。
要が屋敷に来た年から、十希は彼を装わせて毎年そこに連れ出していた。
口を開くのは止められている。
ただ、十希の膝に抱かれてそこにいるだけ。
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