お湯は少なめに沸かしたから、本当はこぼれるほどの量なんかやかんには残っていない。
二楷堂が、それに笑ったのか、私の動揺具合に笑ったのかは、不明。
でも、少なくとも二楷堂は今の状況を余裕を持って楽しんでいるように思えた。
「……離して。
昨日……キ、キスした事、勘違いしてるなら悪いけど、私にとってはあんなの、全然たいした事じゃないから」
精一杯、平静を装って言う。
「二楷堂もそうだろうけど、キスなんか日常的にしてるし、あんなの数のうちってくらいで全然……。
言っておくけど、本当なんだからね!」
こっちは真剣に言ってるのに、二楷堂が笑ってるのが分かって、強めに言う。
笑われれば笑われるほど、動揺を見透かされてる気持ちになって居たたまれなくなる。
「いい加減離してってば!」
お腹の辺りに回っている腕を押しながら言うけど、私の力じゃびくともしなかった。
それどころか、ますます力をこめて抱き締められてしまう。