「楽しかった、じゃなくて、楽だっただけでしょ。
美音が吸った男の記憶操作を私がしたから」
「でも、そのおかげで、亜姫ちゃんだって定期的に血が飲めて衝動も安定してたじゃない。
その証拠に、協会だって私の行動を注意してこなかったし。
普通だったらあんな頻度で人間を襲ってたら注意されるもの」
「分かってるなら少し控えたら? 世界中の男全員を吸い尽くすつもり?」
「それもいいかもね」
美音は軽く笑う。
でも、その後私を見て真面目な顔をした。
「だけど、私の後始末とでも銘打たない限り、亜姫ちゃんは自分から血を吸えないじゃない。
記憶操作で吸う血は極わずかだけど、それでもなんとか衝動を抑えられる量だし。
私と組んで行動するのが、亜姫ちゃんの望む生き方に近いと思うんだけど」
「私の望む生き方?」
「“誰の血も吸いたくない。キズつけたくない”。
どうせ、そんなビジョン持ってるんでしょ」
「……だったら?」
「でも、それが不可能だって事も身を持って分かってる。
だったら、私の後処理をして暮らしていけばいいじゃない。
私は、亜姫ちゃんと過ごしていた時間、好きだったもの」