二楷堂とのキスは、その過程を飛ばして最後の部分だけを味合わされた感じだった。

けど……身体は、血を飲んだ時と同じくらい、もしくはそれ以上満たされてる。
今、吸血衝動はないし、身体だって軽い。

どういう事なんだろう。
キスひとつで満たされるハズなんかがないのに……。

――もしかして。
気を失った後で、吸血衝動に駆られて二楷堂の血を……?

一瞬、そんな不安がよぎった。
だけど、二楷堂はどうやら私をここまで運んでくれたみたいだし、メールだって届いてる。

血を吸ったかどうかは分からないけど、とりあえず無事だって事に安心する。
その後テレビをつけてニュースを確認したけど、電車内での流血事件も放送されていなかったから、二階堂を襲ったわけではないみたいだ。

意識がない時に、血に狂ったりしたら制御が効かない。

まるで……あの事件の時みたいに。

『亜、姫……』

あんな惨劇は……。
一度きりで十分だ。