携帯を閉じて、顔をしかめる。

鍵を二楷堂が持ってるって事は、私が勝手に部屋を出る事は不可能だ。
部屋に鍵をかけずに外出できるほどノンキじゃないし、むしろ警戒心は人よりも高い。

鍵をかけないで出て行くなんて、考えられない。

つまり、明日の朝、二楷堂がくるまで外出は許されない。
まぁ、でも外に行く用事があるわけでもないからいいけど。

そんな事を思いながら部屋に電気をつけて、乾いてる喉をうるおそうと冷蔵庫を開ける。

水くらいしか買い置きしていないハズなのに。
冷蔵庫の中には、買った覚えのない、スポーツドリンクやお茶、野菜ジュース、100%のジューズがたくさん入っていた。

上段にはプリンやヨーグルトまでそろっていて、その上には一枚のメモ。

“気分がよくなったら食べるように”

達筆。
こんな字を書く男は、ひとりしか知らない。

っていうより、私はひとりの文字しか知らないんだけど。

今まで、どんな文字を書くのかを知るほど、一緒にいた人はいないから。
意識して誰とも交流してこなかったから。