「亜姫」

少し落ち着いてきた時、後ろから呼ばれた。
それと同時くらいに、二楷堂がドアに手をつく。

ドアと自分の間に、私を閉じ込めるみたいに。

「……もう、大丈夫だから」
「今はね。でも、亜姫。
俺にできる事があったら、なんでも言って欲しい」

『今はね』なんて、これからまた私がこんな発作を起こすって分かってるみたいな言い方だったけど……。
聞き返す余裕なんてなくて。

でも。
やっぱり二楷堂は何かしらを知ってるのかもしれない―――。

そんな事をまだ落ち着かない思考回路で考えていた時、二楷堂が私の耳元で言った。

「亜姫を、助けたいんだ」

“一体、何から?”
そう思って、顔だけで振り返ろうとした瞬間。

少しかがんだ二楷堂の唇が、私の口を塞いだ。